は、マキ割りなぞが大変よろしいと書かれているな。お前は身体のできるサカリだから、こいつをやらなくちゃアいけない」
わざわざ丸木を買いこんで、夕方からマキ割りをやらせる。裏庭にはマキが山とつみあげられて、表は魚屋、裏はマキ屋のようである。
これを見て、よろこんだのは隣家の床屋の源サンである。客のヒゲを当りながら、
「隣の魚屋はとうとう頭へきましたよ。そう云えば、小学校の時から、どうも、おかしいな、と思うことがありましたよ」
「小学校が一しょかい」
「ええ、そうですとも。魚屋の金公といえば泣虫の弱虫で有名なものでしたよ。寝小便をたれるヘキがありましてね。奴めの亡くなった両親が、それは心配したものですよ。それやこれやで益々泣虫になったんですな。それが、あなた、大人になったらガラリと変りやがって、一ぱし魚屋らしくタンカなぞも切るばかりじゃなく、変に威勢がよくなりやがったんですよ。やっぱり脳天から出ていたんですな。二三年前から子供の野球に熱を入れたあげく、とうとうホンモノになりましたよ。朝はくらいうちから自転車にのって、犬と同じように子供をひいて走りまわる。夜は裏の庭で子供にマキ割りをやらせ
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