てますよ。自分は横に突っ立って、腕組みをしながら、ジイーッと見てますよ。物を云わないね。真剣勝負の立会人だと思やマチガイなしでさア。雨が降っても欠かしたことがないから、裏の庭はマキの山でいっぱいでさア。あのマキを何に使うつもりだろうね」
「内職じゃアないのか」
「冗談じゃアないよ。魚屋がついでにスシを商うとか、夏は氷を商うぐらいの内職はするでしょうが、マキ屋を内職にすることはないよ。マキ割りの横に腕組みをしてジイーッと立ってる姿を見てごらんなさい。生きながら幽霊の執念がこもってまさア。凄いの、なんの。見てるだけでゾオーッとしますよ。にわかに逆上して、マキ割りをふりかぶって、一家殺しをやらなきゃアいいがね」
「フーン。穏やかじゃないね」
「ええ、も、穏やかじゃありません。ワタシャ心配でね。ついでにこッちへ踏みこまれちゃ目も当てられない。猛犬をゆずりたがってるような人はいませんかなア」
 床屋は噂の発祥地。申分のない地の利をしめているから、源サンの流言はたちまち町内にひろがった。おくればせながら金サンの耳にもとどいたから、
「ウーム。このデマは源次の野郎が張本人にきまっている。よーし。覚え
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