る。

     源床が魚屋の発狂を云いふらすこと

 当節は日本中に豆天才がハンランしているようである。目の色を変えているのは親だけだ。そのほかの誰も天才だとは思わない。むろんそれで月謝を稼いでいる先生も。ヴァイオリンの天才。バレーの天才。歌謡曲の豆天才。どれといって親の熱に変りはないが、特に熱病がハデに露出しているのは野球なぞかも知れない。
「今日の打撃率は三割三分三厘だ。相手のピッチャーは年をくッていやがるから、今日はこれでよしとしておこう」
 なぞと、親が河原や原ッぱの子供野球の監督然とスコアをとって、その日の出来によっては夕食にタマゴの一ツもフンパツしようというコンタンである。
「子供が野球の練習に精をだすのは将来のためだからいいけどさ。お前さんが仕事をうッちゃらかして子供の野球につきあっちゃ困るじゃないか。おサシミの出前を届けに行って、三時間も帰りゃしない。小僧が二人もいるのに、お前さんが出前を届けるこたアないよ。明日からは出前にでちゃいけないよ」
「そうはいかないよ。来年度の新チームを編成したばかりだ。次週の土曜から新チームの県大会の予選がはじまるんだよ。長助の左腕からく
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