した。天才てえものは、鼻たれ小僧のうちから、広い日本で四千人に一人でなくちゃアいけねえものだ。長助のヘロヘロダマにまさるタマを投げる者なら、人口ただの十万のこの市だけでも四千人ぐらいはズラリとガンクビが揃ってらア。八千万の日本中で何億何万何千何番目になるか、とても勘定ができやしねえ」
「へ。いまだにカケ算ワリ算も満足にできねえな。お前は小学校の時から算術ができなかったなア。どうだ。九九は覚えてるか。な。碁将棋は数学のものだ。お前の子供じゃア、とてもモノになる筈がねえや」
「お前はどうだ。鉄棒にぶら下ると、ぶら下りッぱなしだったなア。牛肉屋の牛じゃアあるまいし、それでも今日テンビン棒が一人前に担げるようになったのはお天道サマのお慈悲だなア。その倅が、クラゲの運動会じゃアあるまいし、職業野球の花形選手になれるかよ。草野球のタマ拾いがいいところだ」
「今に見てやがれ。十年の後には何のナニガシと天下にうたわれる花形選手にしてみせるから」
「十年の後にはウチの正坊は天下の将棋の名人だ。オイ。野郎の背中に塩をぶちまいて追ッ払っちまえ。縁起でもねえ」
 こういうワケで、両家の国交断絶と相成ったのであ
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