て候とテメエの顔に書いてあらア。学業もろくにやらねえでとッぷり日の暮れるまでタマ投げの稽古をしやがって、それで、どうだ。全国大会の地区予選の県の大会のそのまた予選の市の大会に、そのまた劈頭の第一予選に乱射乱撃、コテンコテンじゃないか。町内の学校だ。寄附をだして応援にでかけて、目も当てられやしねえ。親馬鹿の目がさめないのがフシギだな」
「野球は一人でやるもんじゃねえや。雑魚が八人もついてりゃ、バックのエラーで負けるのは仕方がねえ。長助は中学二年生だ。二年ながらも全校の主戦投手じゃないか。その上に三年生というものがありながら、長助のピッチングにかなう者が全校に一人もいねえな」
「全校たって女もいれてただの四五百じゃないか。このせまい町内だけをチラッと見ても、ブリキ屋の倅《せがれ》、菓子屋の次男坊、医者の子供、フロ屋の三平、ソバ屋の米友、鉄工所のデブ、銀行の給仕、もう、指の数が足りねえや。長助なんぞの及びもつかない凄いタマを投げる奴は、くさるほどいらア」
「フロ屋の三平、三助じゃないか。ソバ屋の米友は出前持だ。鉄工所のデブは職工じゃないか。みんないい若い者だ。大人じゃないか」
「大人が、どう
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