コの倍も速いや」
「なるほど、速い。そろっているな。超少年級。プロ級じゃないか」
「バカ云ってらア」
長助チームは第二投手も全然うてず、五回にして十一対〇。コールドゲームであった。金サンは茫然。夢からさめたように立ち上った。帰って行く長助チームの姿を認めて追いついてみると、彼らは敗戦などはどこ吹く風、まるで負けたのが愉しそうである。
「全然かすりもしねえや。速えなア」
敵に感心して、よろこんでいる。金サンは部長の先生に話しかけた。
「運がなかったですね。あんな強いのにぶつかっちゃアね」
「イエ。運がよかったんですよ。ここまで来れたのがフシギですよ。一回戦で負けてるのが本当なんですな」
「そんなにみんな強いですかね」
「つまりウチが弱すぎるんでしょうな。ピッチャーがいないんです。こんなのが二年つづけて主戦投手ですからね。左ピッチャーという名ばかりで全然威力がないのですから」
部長はキタンのない意見をのべた。金サンは言葉がなかった。長助を見ると、さすがに苦笑している。金サンはようやく目がさめたのである。にわかに疲労が深かまってしまった。金サンが牛肉屋の二階へ来てみると、誰もいない。女
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