中が掃除をしていた。
「もう、すんだのかい?」
「ええ、二時間足らずですんじゃいました」
「どうだった?」
「床屋の子供が三番棒で負けたそうですよ」
「そうだろうな。天下は広大だ。天元堂はどうしたえ?」
「小僧をひきずって停車場へ行きましたよ。この町へ置いといちゃア物騒だとか何とかブツ/\云いながらね」
金サンは源床の前に立った。本日休業の札がかかげられて、カーテンがおりている。金サンは露地を通って床屋の裏口から声をかけた。源サンがねころんでるのが見えたからである。
「源的。すまねえ。そう睨んじゃいけねえよ。あやまりに来たんだ。まったく、すまねえことをした。しかしだなア。お前もガッカリしたろうが、こうした方がよかったのかも知れないぜ。ウチの長助もコテン/\、問題にならねえや。未来の花形選手どころじゃねえや。天下は広大だてえことが、つく/″\分ったなア。早く目がさめて、まア、よかったというものだ」
源サンも敵の来意がのみこめたので、上体を起して背のびをした。そして、云った。
「バカな夢を見たものだ」
「まったくだ」
「長助もコテン/\か。アッハ。おかしくも、なんともねえや」
「本日休
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