をつれて会場へのりこんだ。
 金サンも当日はセビロである。むろん靴もゴム長ではない。青のサングラスをかけて、ネット裏に陣どった。いよ/\長助のチームが出場の番になったが、その入場に誰も拍手した者がない。応援団が一人も来ていないのだ。相手チームの入場にはけたたましい声援と拍手が起った。応援団ばかりじゃなしに、満場の大半が拍手を送っている。優勝候補筆頭の期待のチーム、県下のホープなのである。
「面白くねえな。しかし、今に見やがれ。吠え面かかしてやるから」
 金サンは満場のバカどもに一泡ふかせてやろうと、口に美声錠《びせいじょう》をふくんで時の至るを待ちかまえた。ところが、である。試合がはじまってみると、実に意外である。意外、また意外である。石田投手の物凄さ。身長は長助と同じぐらいだが、スピードは段がちがう。コントロールはいいし、カーブを投げてもスピードが落ちない。金サンはカーブというものは曲る代りにスピードが落ちてフワ/\浮いてくるものだと思っていたのである。
「ウーム。凄い野郎だ。別所に負けないスピードだ」
 金サンが思わず嘆声をもらしたので、近所の人々が笑いをもらした。金サンはムキにな
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