キュッとまがる。このタマの凄さは打者でなくちゃア分りゃしねえよ。よーし。明日の試合を見てみやがれ」
 思わぬ伏兵が現れた。こうなると、自分の倅のことだから、メメズ小僧と正坊の対局よりも心配だ。町内の者も、母校の生徒も、応援に行ってもムダだから行かないと云ってるそうだから、金サンは亢奮のためにその前夜は眠ることができない。
「ベラボーめ。県下の少年選手なんぞが、長助の投球がうてるかい。高校野球の選手だって、めったに歯が立つ筈がねえや。この夏休みの猛練習以来、長足の進歩をしていることを知らねえな」
 金サンは翌朝未明に窓の外から二階の天元堂を呼び起して、
「マゴ/\してると一番電車に乗りおくれるじゃないか」
「まだ、早いよ。四時前ですよ」
「オレはなア。今日の午後は長助の野球の方に行かなくちゃアならねえ。野球が終ると大急ぎで駈けつけるが、それまでは将棋の方に顔がだせないから、お前が代理でござんすと云って、よろしくやってくれ」
「それは、ま、よろしくやるのはワケはないが、旦那もせっかくはりこんだくせに、惜しいねえ。マキはたしかに二割引で売って下さるんでしょうね」
「売ってはやるが、メメズ小僧
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