る。おまけに相手チームには石田という県下第一と評判の高い投手がいる。
「どうも、変だな。長助の評判が立たなくッて、石田なんてえのが県下少年第一の投手なぞとは腑に落ちないな。新聞社が買収されたんじゃねえのか。そんな筈はないじゃないか」
「ところが、そうじゃないらしいですよ。見た人がみんな驚いて云ってますよ」
 金サンの店の小僧がこう答えた。
「え? なんて云ってる?」
「凄いッてね」
「凄いッて云えば、長助が凄いじゃないか」
「イエ。てんで問題にならない」
「ナニ?」
「イエ。見た人がそう云うんですよ。てんで問題にならないッてね。スピードといい、カーブといい、コントロールといい、ケタがちがうッて。町内の見てきた人がみんなそう云ってますよ。明日は町内の学校はてんで歯がたたないッてね。応援に行っても仕様がないやなんて、みんなそう云ってましたよ」
「誰だ、そんなことを云ったのは。長助にヤキモチやいてる奴だろう」
「受持の先生も、そう云ってましたよ」
「あいつは長助を憎んでいるらしいな。第一、町内の奴らには、投球の微妙なところが分りゃしねえ。長助の左腕からくりだすノビのある重いタマ、打者の手元で
前へ 次へ
全28ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング