コの倍も速いや」
「なるほど、速い。そろっているな。超少年級。プロ級じゃないか」
「バカ云ってらア」
長助チームは第二投手も全然うてず、五回にして十一対〇。コールドゲームであった。金サンは茫然。夢からさめたように立ち上った。帰って行く長助チームの姿を認めて追いついてみると、彼らは敗戦などはどこ吹く風、まるで負けたのが愉しそうである。
「全然かすりもしねえや。速えなア」
敵に感心して、よろこんでいる。金サンは部長の先生に話しかけた。
「運がなかったですね。あんな強いのにぶつかっちゃアね」
「イエ。運がよかったんですよ。ここまで来れたのがフシギですよ。一回戦で負けてるのが本当なんですな」
「そんなにみんな強いですかね」
「つまりウチが弱すぎるんでしょうな。ピッチャーがいないんです。こんなのが二年つづけて主戦投手ですからね。左ピッチャーという名ばかりで全然威力がないのですから」
部長はキタンのない意見をのべた。金サンは言葉がなかった。長助を見ると、さすがに苦笑している。金サンはようやく目がさめたのである。にわかに疲労が深かまってしまった。金サンが牛肉屋の二階へ来てみると、誰もいない。女中が掃除をしていた。
「もう、すんだのかい?」
「ええ、二時間足らずですんじゃいました」
「どうだった?」
「床屋の子供が三番棒で負けたそうですよ」
「そうだろうな。天下は広大だ。天元堂はどうしたえ?」
「小僧をひきずって停車場へ行きましたよ。この町へ置いといちゃア物騒だとか何とかブツ/\云いながらね」
金サンは源床の前に立った。本日休業の札がかかげられて、カーテンがおりている。金サンは露地を通って床屋の裏口から声をかけた。源サンがねころんでるのが見えたからである。
「源的。すまねえ。そう睨んじゃいけねえよ。あやまりに来たんだ。まったく、すまねえことをした。しかしだなア。お前もガッカリしたろうが、こうした方がよかったのかも知れないぜ。ウチの長助もコテン/\、問題にならねえや。未来の花形選手どころじゃねえや。天下は広大だてえことが、つく/″\分ったなア。早く目がさめて、まア、よかったというものだ」
源サンも敵の来意がのみこめたので、上体を起して背のびをした。そして、云った。
「バカな夢を見たものだ」
「まったくだ」
「長助もコテン/\か。アッハ。おかしくも、なんともねえや」
「本日休
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