ね。予算のないのは分るが、なんとか無理算段して学校の床を張ってやることはできまいか」
余が重ねてかく云うと、彼はまたしてもにわかに険悪な色を目にためて、
「そうですか。おやり下さい。村長。遠慮なく。御気のすむようになさいましよ。村長」
余は村長とよばれると身のすくむ屈辱を味うことを、この時に知ったのである。羽生はこう呟いた。
「しかしですな。いっそ土間の方が火事の心配もなくて安心だ。むしろ教室を床張りにして、宿直室と教員室を土間にしてやればよかったのさ。土間に藁をしいて宿直するのが、あの奴らにはふさわしい」
2
小野マリ子には、羽生のほかにも敵が多かった。そして、羽生を除けば、いずれも敵となるべき明瞭な理由があった。概ねそれは笑うべき理由であったのである。
たとえば根作は一匹の馬を持っていた。何につけても威張ることが好きで、人を下に見たがる男であるが、特に馬には特別のものがあるらしく、俺の馬は日本一だと云いつけていた。するとその子供が根作の自慢をそっくり受け売りに綴り方を書いた。うちの馬は人の言葉が分って返事をするし、楠正成のような忠義をつくすというような綴り
前へ
次へ
全34ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング