方であった。するとマリ子はその末尾に一行の評言をこう書いた。
「今度日本一の鹿を買うようにお父さんにすすめなさい」
十日ほどすぎてから根作が学校へねじこんだところを見れば、それまで気がつかなかったのであろう。彼は馬の口をとって乗込み、
「俺を日本一の馬鹿と云うたな。さてはまたこの馬を日本一の馬鹿と云うたのか。いずれにせよ……」
朝方から夕方まで馬とともにごねていた。そのために学校は一日授業ができなかった。その時からの不倶戴天の恨みがある。根作は何かにつけてマリ子の敵であることを隠さなかった。
また、茂七はばくちであげられたことがあった。この村の悪い習慣で、ばくちを日常の娯楽とする者が少くない。別に貸元親分がいるわけでもなく、ばくち打ちというヤクザを稼業とする者がいるわけでもないが、農民の夜の楽しみがばくちである。年々、目にあまる時に誰かしらあげられる。その年は茂七があげられた。
するとその年の小学校の学芸会に、ばくちの最中にふみこまれてあげられるという劇がでた。ところが、あげられる役が茂七の倅《せがれ》であった。彼は泣いて三拝九拝するが及ばず、後手にいましめられてえんえんと号泣
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