しつつ引ッ立てられるのである。
 茂七が怒ったのは云うまでもない。また村民の多数も怒った。なぜなら彼らはばくちの常習者であったからだ。
 ところが受持教員のマリ子が云うには、その劇は子供たちが自発的に創作上演したもので、役割も子供同志できめたことだというのである。茂七の倅に問いただすと、彼はうなずいてそれを肯定したばかりでなく、俺が俺のとっつぁま(父)の役をやるべいと勇み立って引きうけた事柄なぞも次第に判明した。思わぬ藪蛇に終ったために、茂七ならびに同類のマリ子への恨みは益々深く根を結ぶに至ったとのことであった。
 以上は一例にすぎないが、かくの如くにマリ子には敵が多い。たまたま村に防火用水を設置することになり、それは民家の密集地帯に設くべきものであるがために、村民の声は期せずしてマリ子の家を取りこわして設置すべしと決するに至った。故小野大佐は分家であるために、この村には持ち家がない。遺族は戦争中小さな農家を借家して疎開生活を営んだのである。
 余が村長に就任後、期日到来して、小野遺族の強制立退きが実行せられることとなったのである。遺族はマリ子のほかに母と弟の三人にすぎないが、この弟は
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