カリエスのためかねて病臥のままであった。
余分の住宅がある筈もない山里のこととて遺族は転居先に窮した。そのとき、学校の同僚が見かねて、宿直室にマリ子一家を収容すべしと定め、役場や村会にはかることなく転居せしめてしまったのである。
ために役場の楼上には緊急村会がひらかれて対策が凝議せられた。村会の意見では、学校側の処置は村に対する公然たる対敵行為であるということである。そこで余が立って、
「学校側が無断でこの処置を実行したのはよろしくないが、同僚たる教員一家が住宅に窮している際に、学校の宿直室を提供しようとはかるのは唯一の策で、策として難ぜらるべきところはない。彼らの処置が一見対敵行為の如く角が立って見えるのは、そもそも防火用水設置に当って小野遺族の住宅に白羽の矢をたてたやり方や、転居先を用意してやらなかったことなぞが、彼らをして敵意をいだかしめる原因をなしているように愚考する。要するに、村の処置にも反省すべきところがあるように思う」
かく論じ終る暇もなく、
「何を云うか!」
と大喝した者がある。馬と鹿の根作であった。彼は村会議員である。彼は云った。
「ないものは仕方がない。それ
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