とも村長は手品を使って空き家をつくることができるか」
 山里の人間は妙な譬喩を用いて論議を行う天分がある。
「そもそも学校の宿直室は公器である。同僚の危急見るに忍びないのは結構であるが、それでは何故に彼らの私宅を開放して収容しないのであるか。村の公器を私用に供するとは奇怪なる汚職事件である」
 根作はこう断じて見栄をきった。農民は意外に弁論に長じているもので、村長に就任以来特に余の痛感したのはこの一事である。浅薄な常識論を述べたてて、意外に深刻な反撃を喫したことは一再にとどまらない。余の悪癖は口の軽く論拠の浅いことである。余は根作の反撃をうけて沈黙せざるを得なかった。
「村長無用!」
「村政に口をだすな!」
「約束を忘れたか!」
 口々にこう罵られて、余はいさぎよく退席した。無為無能の村長をもって任じているから、反撃をくらえばこだわりなく退くだけの悟りは開いていたのである。しかるに余の退席後、奇怪な決議が行われたらしい。
 次の日曜日に大工が小学校を奇襲して、職員室と宿直室の根太をはいだ。これを一部に当てて教室に床を張ったが、その代りとして、職員室と宿直室は土間に変ってしまった。
 報
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