に接して余も学校にでかけたが、村長たる余でさえも、村会議員とその手先の村民にさえぎられて、工事の現場に立入ることはできなかった。村民の一部は消防の装束をまとって、禁止区域に立入る者は容赦なく撃滅の覚悟をかためていたようである。
「戒厳令下だね」
 と余が呟くと、
「不謹慎な。口をつつしみなさい。元軍人とも思われぬ」
 羽生が青筋をたてて余を罵った。
 先日羽生が余に向って本日の出来事と同じようなことを口走ったのを耳にとめていたから、本日の挙も発頭人は彼であろうと考えた。そこで余は羽生に向って、
「貴公は先日数年来の決算書類を余に提示して逆さに振っても根太板一枚でないことを強弁したばかりであるが、あれは一時の偽りだね。本日の挙は甚だ不合理ではないか」
「はッはッは。今日のことでは一文も村費は使っていませんぜ。これぐらいは、まだ序の口さ。あのあばずれやその同類を村から叩きだすためなら、根作なぞは自慢の馬を売ってもよいと云ってるぐらいさ」
「鹿の頭がなくなってよろしかろう」
「不謹慎な!」
 羽生はまた青筋をたてたが、余らを取りまいていた村民たちはげらげら笑った。そして噂のひろまるのはまこと
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