未払いです。次に私が村費をいかように使っているか。私の出張費を調べなさい。就任以来七年間、私は出張手当も辞退しています。手弁当です。毒消し売りの泊るはたごに泊りこんで、諸々方々を拝み倒して、あれだけのバラックがともかくでき上ったのですぞ。この私に、おくめんもなく、羞しいとは思いませんか。よくも、あなた、何一ツ苦心したこともないくせに、云えたものですね」
「貴意はよく分りました。御説の如くに書類を拝見して私の意見をのべましょうが、君はいささか亢奮しすぎている。私の言葉を一々誤解して聞きとっているように思う。互いに冷静を欠くことなく、よく話し合い、心を合せて村のために働きましょう」
余は羽生助役をなだめ、それからは約一週間がかりで古い書類に目を通した。彼の云う通りである。この村の不景気もさることながら、逆さにふっても血もでない村の財政である。それにつけても、彼の無慾な奉公ぶりは偉とするに足る。彼の東奔西走は一貫して手弁当であった。
彼の怒りはその努力の知られざるに由ってであろう。かく観ずれば彼の怒りもいわれなきことではない。余は知らざりしを恥じた。よって彼に不明を詫びたが、
「しかしだ
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