とが、それほど君の気にさわる理由が分らない。君は婦人にたばこを与えた男が悪人だと考えるような変った習慣があるのだね」
「まア、そうですな。村長が村で名題のあばずれに呼びだされてたばこを与えに出かけるのと同じぐらい変った習慣ですよ」
「時に、小学校のバラック校舎には床が張ってないそうな。ガラスも大半われているが、あれを何とかできないものかね」
「よくもそんなことが云えましたね」
彼の血相が変った。一と思案のていであったが、何事か思い決した様子で、書棚から何冊かの書類を探しだしてきた。
「まずこれに目を通していただきましょう。あれだけのバラックにも私の血がにじんでいるのです。もしも私というものがいなければ、あのバラックすら建つ道理がないのですぞ。どこに金があるか。金がないのに、あのバラックがどうしてできたか」
彼はこう喚きながら、尚も書棚を往復して多くの書類をとりだした。余の机上にはたちまち堆《うずたか》い書類の山ができた。
「まず村費をごらんなさい。いくらの収入があって、いくらの支出があったか。次に小学校新築の特別収入。いくらありますか。そしてバラックにいくらかかったか。まだ約半額は
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