せるで吸うのよ」
「ははあ。ふだんきせるを腰にぶらさげておいでかな」
「まさか。男の先生の抽出しから見つけてきたのよ。あなたたばこ持ってる?」
余は彼女に悪感情を覚えなかった。なるほど世評の如くにお行儀はよろしくないが、ざっくばらんで、面白い女性ではないか。
余が懐中よりたばこをとりだして与えると、彼女はにこにことうちよろこび、
「予想通り、甘いわね。たかりすぎたせいか、よその村の人でないとたばこをくれなくなったわ」
「そんなにたばこがお好きか」
「馬鹿云うわね。ほかに何かすることがあると思うの」
「読書したまえ。教育者には読書が必要だね」
「小学校の先生に必要なのは腕ッ節だけよ。次に、教育者の自覚としては物々交換ということかな。与える者は取るべし。あなたには何も与えないけど、この村の物はたいがい貰っていいような気持にさせられるわね。たばこなんかお金をだして買うものだとは思えないわ。みんなただみたい」
「あなたはお金で何を買うね」
「買うほどのお金もくれないくせに。ほら。ごらんなさいよ。これが二十五歳の未婚の女性の服装よ。胸にも、腕にも、スカートにもつぎはぎがあるでしょう。胸と腕の
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