だということが次第に判明した。
南方で戦没した陸軍の小野大佐の娘がこの小学校の先生をしていた。村では甚しく悪評の女性であったが、父が父のことだから、特に余は同じ軍人のことで他人とは思われない。話せば心が通じるであろうと思い、ひそかに会見の日を愉しみにしておった。
すると、一日、彼女から役場へ電話がかかった。余に会って話したいことがあるから学校まで来てもらいたいというのである。助役の羽生は外出中で、他に相談すべき者もいないので、ちょうど退け際でもあるし、余は学校へ行ってみることにした。
冬の寒風吹きすさぶ暮方であった。余が小使にみちびかれて職員室に入ると、外套を肩からかけて股火鉢をしていた女性がいたが、それが彼女であった。余を見ると軽く会釈し、
「退屈したから電話かけちゃったわ。日直なんですよ。ほかに用もないし、たばこもつきちゃったから、吸いがらを拾って吸って、中学校の職員室の火鉢もひッかきまわしてきたんです。たかるにも誰もいないし、カモがこないかなと考えてるうち、ふッとあなたに電話しちゃッたわけね。村長さん。ごきげんいかが? 役場は面白いですか」
「吸いがらを吸う?」
「そう。き
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