羽生への吊し上げは猛烈をきわめた由であるが、それは彼らが、費用の負担をまぬがれたい一念によるものの如くである。村の噂によれば、結局羽生が全額負担することになったという話であった。
思えば羽生も不思議な人物である。あるいは悲劇的な人物と申すべきかも知れぬ。村のためには手弁当で東奔西走しながら、報われること少く、また彼の意見が尊重されたこともない。たまたま彼の意見が敬意を払われた如くである場合には、狡猾な村人たちが負担を彼に負わしめた場合の如きに限られているようである。
彼は富める人の如くにも思われぬから、手弁当はとにかくとして、今回の失費の如きをいかにして支払うのか、人ごとながら頭痛にやんだほどである。しかるに彼は彼自身の損害や心痛については決して語ろうとしなかった。彼は身にふりかかる苦難は誰にも秘めて堪え忍ぶのが本懐なりと堅く心に期するものの如くである。それにひきかえ彼に苦難を与えた人物に対しては邪推の限りをつくして悪口を浴せた。
「今だから申しますが、小学校の怪火には、放火した犯人がいるのです」
彼は余を役場へみちびく道すがら、突然そのようなことを云いだした。
「君はその犯人が
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