こともできやしないんだ。死んでからでも同席できる身分じゃないぞ。貴様らは畜生道におちた奴らだ。地獄の鬼が迎えにくる奴らだぞ!」
 羽生の見幕の怖しさ。余も思わず襟元に冷水を浴びた思いがした。
 このようなことがあって、当日の緊急村会はめちゃ/\になり、余の村長辞職の件はうやむやになってしまった。
 翌日余が出勤を渋っていると、羽生がわざわざ迎えに来た。役場へでてきて、村長の席に大きな顔をしておさまっていてもらわないと始末がつかないからと云って、手をひくようにして連れだした。
「彼らにとっては自分の損ほど天下の大事はないのです。世のため人のために一文といえども投げだすことを知らないのです」
 羽生の怒りはつきなかった。
 彼がかく心境の変化を来したのには理由があった。彼が今回のいやがらせの発頭人であったため、いやがらせが思うように効を奏しなかった結果として仲間の批難が彼に集中した。
 特に今回のいやがらせには相当の費用がかかっている。それは村の予算外のものであるから、仲間同志で負担する取り極めであった如くである。しかるに思うように奏効しなかったものだから、まず金の恨みが第一にきた。彼らの
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