るような次第であった。余は茫然立ちつくしてただ一同のしずまるを待ったのち、
「諸君の言は余輩の臓腑をえぐるものがあった。諸君の叱責、まことにさもあろう。ここに深くお詫び致すものである。自分に貯えがあれば自腹を切りもしよう。また政治家たるの才があれば金策に奔走もしよう。そのいずれも持ち合せがないと知って村長の地位をけがしたことは不明の致すところである。ここに深くお詫びして、辞職いたすこととしたい」
それは余の心底から発した声であったが、一同にとっては意外であったらしい。妙にしずまり返って、言葉を発する者もなくなってしまった。そのとき立ったのは羽生助役であった。意外にも羽生は一同をはったと睨みつけて、
「議員諸君の言は村長に対して無礼千万である。そもそも佐田海軍大佐を村長に推薦するに当って、諸君は大佐になんと約束したか。金策その他の雑務については一切大佐に御迷惑はおかけしないという約束ではないか。そもそも大佐は清廉潔白、身を持すること厳格、軍人中にあっても亀鑑と申すべき謹直無比の将軍である。私利私欲、利己主義のかたまりのこの村の人間とはものが違うぞ。世が世ならば、貴様ら、足もとへ寄りつく
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