び緊急村会が召集されて対策が凝議されたが、余は特に次のような発言を行った。
「私は村政を皆さんに任せ放しにして無為無能をもって自任している村長であるから多くのことは望まないが、ともかく村長には変りがないから、皆さんの決議の如きは一応これを私に報告して村長の意見も徴してもらいたいものと思う。さすれば今回の事件の如きも、あるいは事前に防ぐことができたかも知れない。私はとりたてて能がないが、ただ一つ中庸を尊ぶことに於て人後に落ちないことが取柄ではないかと考えている。政治というものは技を要し策を要し、機にのぞみ変に応じて甚だ複雑困難なものの如くであるが、一面中庸を失わなければ大過なきを得るものの如くである。その意味に於ては、無為無能の村長たる私も多少の存在理由を認めうるかに考えている次第である。しかるに村長の意見を徴することなく村会の決議を実行せられては、私としても多少の取柄を発揮する余地がなく、村民に対しても合せる顔がない。以後かかることのなきよう、特に皆さんの御注意をうながしたいと思う」
すると根作が立って云った。
「俺も村長に一言注意しておきたいが、そういつまでも俺は無能の村長であると
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