すよ。王様がふとんをひッかぶってねていたり、お尻だけだして便所にしゃがんでいたりするの、おかしいわよ。土と藁の中から目をさまして這い出してくる方が、よっぽど王様らしいや」
「私も自棄を起した覚えはあるが、結局熱湯はやけどするばかりで、飲むことも浴びることもできないのだね。生きるためにはぬるま湯に限るものだ。無為無能と観ずればたたみの上で平凡に夢が結べる」
「おじさま。お子さまは?」
「嫁に行ったよ。死んだ男もいる」
「この前、いつ、使ったのかな。おじさまなんて言葉。甘えたくなったのかしら。人をだます力が欲しいや」
「私の家へきて、休養しなさい」
「駄目なんです」
「なぜだね」
「土と藁の中から目をさまさなければいけないから。時々、たばこいただきに行きますわ。藁の中で見た夢、話してあげましょう。おばさまに、よろしく」
 マリ子は背のびを一つして、立ち去ったのである。
 余は墓地から山径をとって家へ戻った。道々余はマリ子ならびにその家族を無理にもわが家へ案内すべきではなかったかと後悔したが、余の語る話をきいた家人が、
「どうして御案内なさらなかったのですか。私が行ってお連れ致して参りましょ
前へ 次へ
全34ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング