しむことを悲しむ。我々は、このやうな「嘘」に対して、小心であり、警戒的でありすぎる。のみならず、このやうな「嘘」が果して決定的に嘘であり贋物であるか、その研討をまつたく無視して、甚だ軽率に否定しがちなことを悲しむ。
 私は中村君の「長耳国漂流記」に、この「嘘」に対する比類ない潔癖からでたひとつの完成された形式を見出すけれども、私は然し、この潔癖からぬけだし、嘘の泥沼へ真向から飛込むことが、我々の小説に必要ではないかと思つてゐる。
 あらゆる制約を恐れず、浪曼精神の赴くまゝに、たゞ、奔放に。――聡明な中村君に、私は、次に、その答案をもとめたい。



底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
   1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「現代文学 第四巻第七号」大観堂
   1941(昭和16)年8月28日発行
初出:「現代文学 第四巻第七号」大観堂
   1941(昭和16)年8月28日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2008年9月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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