たのは四十がらみの人相のわるい男であったが、彼の名刺を受けとって、
「オヤ。新聞記者? 新聞記者か。アハハ。新聞かア。アハハ。アハハア。アハハハハハ」
彼の素ットンキョウな笑いは止るところがなくなったようである。その笑い声が寒吉をみちびき、奥の部屋で主人に紹介を終っても、笑い声は終らなかった。三高はイヤそうに顔をしかめたが、笑い声を制しなかった。選挙中は何事も我慢専一という風に見えた。
「立候補の御感想を伺いに参りましたが」
「まアお楽に」候補者らしく如才のない様子だが、それがいかにも素人くさい。それだけに、感じは悪くなかった。
「立候補ははじめてですか」
「そうです」
「どうして今まで立候補なさらなかったのですか」
「それはですね。要するに、これはワタクシの道楽です。ちょッとした小金もできた。それがそもそも道楽の元です。金あっての道楽でしょう。御近所の方々もそれを心配して下さるのですが、ワタクシはハッキリ申上げています。道楽ですから、かまいません。かまって下さるな。ワタクシに本望をとげさせて下さい、と」
「本望と申しますと?」
「道楽です。道楽の本望」
「失礼ですが、ふだんからワタ
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