った二人、いまいましそうにパンの切れっぱしを分けてくれただけであった。
彼は昔からの習慣で、幹部女優の部屋へ行って隙をうかゞっているのである。なぜなら、男優の奴らはシミッタレでタバコをパイプで根元までジュウ/\吸う。さすがに女はパイプなどは用いない。ポイと吸いさしを棄てるところを待ってましたと拾う。拾うだけならよいが、棄てないうちに、さらいとる。以前は、一本あげるわよ、などいってくれたものだが、当節はそんな優しい言葉をかける者は一人もいない。馬吉を見ると、弟子の女優に、
「馬が来たよ。タバコ、オ弁当。それから蟇口《がまぐち》ね、みんなシッカリしまっておくれ」
という。
「よせよ。威張るない。オレだって、こんなこと、したくないよ。だけどさ。時世時節だから、君たちに狙いをつけるんだ。そうじゃないか。オメカケだのパン助だのと、女には内職できるけど、男はそうはいかねえよ。女の天下だから、あがめているんだ。有難く思いなよ」
「なにいってやんだい。甲斐性なしは男の屑さね。トンチキめ」
と、いうようなグアイで、手がつけられない。みんな見上げた人物なのである。彼も素早く退歩の陣立てをかためておけ
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