ば、この社会でなんとか生計の立たない筈はなかったのだが、よウ、待ってましたッ、などゝ、たった一度だが、声をかけられたばっかりに、名優なみに豪遊して借金をつくって首がまわらなくなっているから、もはや手の施しようがない。
馬吉は空腹に降参した。泥棒だの殺人なども退歩の一策であり、あえて辞せないところであるが、一応はオンビンに運びたいと思ったのはムリのないところである。
彼は、すでに道具方の下働きで、舞台へ姿を現わすわけには行かないのであるが、サンチャン、というメソメソしたチンピラを拝み倒して、顔を白く塗ってもらい、物蔭に忍んでフィナーレを待った。
昼の第一回目のフィナーレである。奏楽が始って、ゾロ/\と現われる。彼はサッと踊りでゝ、中央の先頭に立ち、フラダンス、ヴギウギ、アクロバット、ウンチクを傾けての合成品、ヘッピリ腰で踊りまくり、一同が引っこんでからも、一人残って熱演。幕が下りると、幕をかきわけて、天地陰陽とりまぜての歌謡曲。みんなゲラ/\笑っている。
馬吉は胸に掌を組み合せて、小首をかたむけて、ご挨拶。
「エー。皆様オナジミの珍優、ノド自慢の馬吉、一言御挨拶申上げます。当劇団
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