も追々《おいおい》とお引立てを蒙り細々ながら経営をつゞけておりますところ、座長、幹部俳優ともなりますれば、ゴヒイキは有難いもの、物資不足の当節にも拘らず、色々と差入れがありまして、小菅《こすげ》の大臣なみに幸せを致しております。しかるに不肖ノド自慢の馬吉ほどの逞しき男性も、珍優というばッかりに、世に誰一人として差入れて下さらない。アア、実に残念、悲しみの極みであーる。妖しくも燃ゆる血よ。ボクは切ないです。やさしき乙女のご後援を待望いたしまアす。キャーッ」
というのは、誰かゞリンゴを投げて、彼の下腹部に命中したのである。馬吉はウムと唸って、オ猿サンのように膝をだいてすくんだなり、動けなくなってしまった。これは芝居ではない。数名の座員に襟クビをとって舞台裏へひきずりこまれても、オ猿サンの姿勢をくずすことが出来ない始末である。
「ヤイ、この野郎。ふざけたマネをしやがる。一座の面目まるつぶれじキないか。色キチガイめ」
若い座員がコッピドク馬吉に往復ビンタをくらわせた。さすがに品川一平はゲラゲラ笑っていた。場末の役者ともなれば、根はそれだけのものだと心得ているからである。馬吉には、これが泌々
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