れ、彼はその晩、酔っ払って、野宿した。この社会は、あたたかいようで、大変つめたいところである。それは馬吉の気質のせいにもよるのである。彼は人にタカッて飲むことはあっても、人にタカられないチャッカリ屋で、品川一平のアパートに居候をきめこんでいても、二斗の米は自分だけで食い、リヤカーを売っても、自分一人でたのしんで、人におごったことがない。これは馬吉天来の気質であるが、この社会では、たいがいの連中が同一気質で、奴め今日は持ってやがるなと馬吉が睨んで飲み屋までついて行っても、自分だけ飲んで食って、馬吉には何もくれない。みんなアッパレなサムライで、さすがに揃っていやがると馬吉は内々感服するのあった。
 馬吉は地下道に住むことを怖れるような男ではなかった。当今、地下道あり、寺院の縁の下あり、寝場所にこと欠くことはないが、胃袋の方はそれではすまない。
 翌日野宿から起き上って、水をのんで小屋へ通い、そこは男よりも女、女優を一人一人訪問して、弁当を一つまみずつ分けてもらう。女となめると大マチガイ。
「なにいってやんだい。オタンコナス」
 と大姐さんにアグラをかゝれてタンカをきられる始末。チンピラがた
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