らいやがって、こっちが持たねえよ。上野の地下道へ行きゃ、なんとかならアな、退歩しろよ」
「いけないよ。地下道に米は落っこってやしないじゃないか」
「テメエの食い分はテメエでなんとかしやがれ。そこまで人が知るもんか」
と、追いだされてしまった。なるほど品川一平の説は正論である。馬吉は正論に対しては感服を忘れぬ男であるから、なるほど、もっとも至極であると思った。然し、感心してばかりもいられないから、一座の誰彼を拝んで、
「オイ、一晩、とめてくれ」
「いけねえよ。泊ることは差支えないが、泊めっぱなしというわけに行かないからな。お前は図々しいから、メシを盗んで食うだろう。それがあるから、いけないよ」
「それは腹がへりゃ仕方がないから、盗むかも知れないが、一晩のことじゃないか」
「一晩だって、お前の胃袋は底なしだからそうはいかない。ほかへ当ってみな」
彼は女優はダメなのである。入団|匆々《そうそう》みんな一々当ってみて、例外なくアッサリ肱鉄《ひじてつ》をくっているから、見込みがない。
リヤカーはとっくに売りとばして酒を飲んでしまったし、まゝよ、フトンを売って飲んでやれ、あとは野となれ山とな
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