イノコにならなきゃいけないじゃないですか。日本とかマレーの土人がヨーロッパに近づくというのは、失礼ですが、マチガイなんだと思わねえかな。ヨーロッパが日本やマレーに近づくことが文明ですよ。だって、下から上がるのは元々ムリじゃないか。上から下へ落ちるほかに手はねえや。だからボクだって、覚悟をきめて百姓のお聟さんになって、ボクは下ったツモリだったけど、これがマチガイですよ。だから、また、下らなきゃいけない。狸劇団へ身をやつす。退歩主義、必死の思いですよ。たのみます」
「ふざけるない」
「ふざけちゃいないよ。なんでも、やるからね。役者でも、道具方でも、ハヤシ方でも、選り好みはしないよ。あんなもの、ちょッと稽古すりゃ出来るだろう。なんなら、あなたの書生でもいゝよ。メシを食わして寝かしてくれりゃ、なんでも、やらア。この小屋の火の番やろうか。ちゃんとフトン持ってきたから、舞台のマンナカへ寝かしてくれりゃ、なんでもないじゃないか」
「ふうん」
といって品川一平はソッポを向いたが、彼は心眼によって、馬吉の非凡なところを見抜いたのである。よほどのバカでなければ出来ないショーバイというものがあるものだ。然
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