ンカツが食いたかったんだけど、あいつは高いからさ。ずいぶん我慢しちゃった」
というグアイである。
「このゴクツブシめ。時世というものを考えてみやがれ。配給というものがあって、政府、国民、一身同体、敗戦の苦しみてえことを知らねえのか。バチアタリめ」
「アレ。心得ているクセにムリなこといってるよ。配給じゃ生きられねえから、ここの商売がもってるくせに、いけねえなア。キマリの悪い思いをさせるよ」
そこで新しいオヤジとオフクロが額をあつめて秘密会議をひらいた。無給でコキ使っても、ひき合わないからである。バラバラにきざんで、隅田川へ捨てる、というワケにも行かない。よく切れる庖丁もあることだし、馬みたいのものだが、馬のように怒って蹴とばす心配もないのだが、戦争に負けても、刑務所などゝいうものが、なくならないのだから始末がわるい。
そのときオヤジがオデコをたゝいて新発見を祝福した。オヤジが米の買い出しに出向く埼玉の農家に、ウス馬鹿でヤブニラミの一人娘がいるのである。聟を探しているが、女ヒデリでない当節、まして田舎のアンチャン方は都会のセビロやジャンパアなどを買い集め、洋モクをくゆらしてダンスを踊
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