であろう。彼は路上に煙草の吸いがらを見つけて拾った。ライター屋のライターをちょッと拝借して火をつける。相済まん。許せよ。ライター屋の売子はちょッと可愛い娘である。ビックリして目の玉を大きくしている。ちょッとカラカイたくなって、ライターを、ポケットへ入れる。アッと叫びそうになる。
「ヘッヘッヘ。うそだい」
 ライターを置いてニヤリとウインク。いきなり、コツンとなぐられた。
「おい、よせよ。冗談じゃないか」
「なめたマネしやがると、たゞはおかねえぞ」
 相手は二人。ライター屋の隣の店の店員らしい。ライター屋の娘に威勢の良いところを見せたいのかも知れない。
「ヘッヘッヘ」
 馬吉は無抵抗主義である。退歩主義と共通のもので、進取の気象などゝいうハデなものがなくなれば、誰しもそうなる文明の極致なのである。
 彼はうまいことに気がついた。品川一平のアパートへ行く。監理人からカギをかりる。昨日まで同居していた仲であるし、ここまでオフレがまわっている筈はないから、疑われる心配はない。うまうまと成功した。
「エッヘッヘ。とにかく、あいつは甘いよ。みんな目クジラ立てている最中に、あいつだけゲラ/\笑ってい
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