るから、馬吉は益々物欲しくなるばかりである。
「なア、熊さん。ホーバイのヨシミじゃないか。センベツ包んでくんないか」
「よしやがれ。消えて失せろといったら、分らねえのか」
馬吉はあきらめて歩きだした。どうも仕方がない。どうせ盗むなら、勝手知ったるこの小屋が心易くていいのだが、監視厳重だから、どうにもならない。出口に楽屋番が睨みつけて、早く出て行けという気勢をすさまじく示している。
「なア、オイ。ヨシミじゃないか。いくらか包んでくれねえか、センベツよ。恩にきるよ」
どうせムダとは分っているが、思うことは言ってみる必要がある。楽屋番は返事の代りに裏口の扉をあけて、彼の襟クビをつかんで、突き放した。彼がよろけているうちに、扉がしまった。そんなことは、もう、問題ではない。
彼は柄にもなくヨシミだのホーバイだのといったことに気がついてキマリの悪い思いをした。義理人情はつまらぬものだ。ドイツもコイツも見上げたサムライばかりである。人生はそういうものだ、と、彼は自分のウカツさを苦笑した。
さて、オレもサムライにならなきゃいけない。サムライとは何ぞや。椎名町帝銀犯人氏などがアッパレなサムライ
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