やがったからな」
馬吉は米を探しだして、まずメシをたいた。一平の炊事は馬吉がしていたのだから、なれたものである。馬吉がいなければ外で食事をするだろうから、ノンダクレの一平が早く帰ってくる筈はない。馬吉はゆっくりメシをくい、あと一二杯で充分に満腹するところであった。
まの悪い時には仕方がない。一平が帰って来たのである。元々彼は役者と違って、二六時中小屋につめている必要がないのである。馬吉はヤヤと驚き、慌てゝ、オハチを両手でだいた。もうちょッと食べるゴハンが残っていたからである。
「ちょッと待った。ちょッと、待った。相済まん。待ってくれなきゃ、いけないよ。五分早く怒ったって、結局おんなじことだからな」
彼は急いでメシを茶碗へギュー/\押してつめこんだ。そこへ箸を突っ立てゝオシンコの皿を片手に部屋の片隅へ待避した。
「五分おそく怒ったって、おんなじ理屈じゃないか。辛抱しなよ。食慾ッてものは仕方がないよ。戦地じゃ戦友の屍体の肉まで食いやがったっていうじゃないか。オレだって、こんなことはしたくないけど、ほかに当てがないからさ。オレの身になってくれなきゃ、いけない」
馬吉はチラチラと一平を
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