ぞよ。(と斯う言つたとき、坊主は思はず嬉しさにニタ/\と相好を崩した。)わしは今夜は大切な用向きがあつてな、昼うちだけ寒原さんへお勤めに行くよつてな、お前は今夜わしの代役でお通夜の主僧とおいでなすつたぞよ。ありや/\、どうぢやな、てへへん、嬉しくて有難くつてこつたへらんところだらうが……」
 と、斯う言はれた小僧は当年十四歳であつた。勿論生れた時から数へてのことで、小僧になつてから十四年も劫を経たわけではなかつたのである。勘の素早い小僧はむつとした。それから、前垂れで頬つぺたをこすりながら、ひどく深刻な、むつかしい顔付をしたのである。そして、
「わたしは、まだろくすつぽ、経文を知らんですがねえ……」と言つた。
「なになに、ええわ、本を読みなされ」
「字が読めんです」
「この大とんちきめ!」と坊主は思はず怒鳴つたが、大事の前で軽率な怒りから身を亡してはならないのである。そこで今度は教訓的な真面目な顔をこしらへた。「小僧といふものはな、習はん経文も読まねばならんもんだぞよ。うへん、ま、仕方がないわ。知つとるだけの経文を休み休み繰り返しておきなされ。WAH! こうしてゐられん! WAH! こ
前へ 次へ
全23ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング