びであつた。
私の肌が火の色にほの白く見える明るさになつてゐた。野村はその肌を手放しかねて愛撫を重ねるのであつたが、思ひきつて、蓋をするやうに着物をかぶせて肌を隠した。彼は立上つてバケツを握つて走つて行つた。私もバケツを握つた。そしてそれからは夢中であつた。私達の家は庭の樹木にかこまれてゐた。風上に道路があり、隣家が平家であつたことも幸せだつた。四方が火の海でも、燃えてくる火は一方だけで、一つづゝ消せばよかつた。そのうへ、火が本当に燃えさかり、熱風のかたまりに湧き狂ふのは十五分ぐらゐの間であつた。そのときは近寄ることもできなかつたが、それがすぎるとあとは焚火と同じこと、たゞ火の面積が広いといふだけにすぎない。隣家が燃え狂ふさきに私達は家に水をざあ/\かけておいた。隣家が燃え落ちて駈けつけるとお勝手の庇に火がついて燃えかけてゐたので三四杯のバケツで消したが、それだけで危険はすぎてゐた。火が隣家へ移るまでが苦難の時で、殆ど夢中で水を運び水をかけてゐたのだ。
私は庭の土の上にひつくりかへつて息もきれぎれであつた。野村が物を言ひかけても、返事をする気にならなかつた。野村が私をだきよせたとき
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