いよ。人間もここの浜では砂粒とおんなじことだ。息の根をとめてみたつて、もと/\たかがこんな屑みたいな小粒かと思ふと、いい加減がつかりして、却つてほつとするんだ。とにかく自然もこれくらゐ荒々しくなると、せつないやうな救ひがあるよ」
 と、当太郎は微塵も陰の感じられない哄笑を高らかに鳴らしながら、そんな述懐もしたのだつた。
 ところが翌朝になつてみると、当太郎の姿が見えないのだ。散歩の風をして宿をでかけたことまでは分つた。方々手を廻して調べてみると柏崎から汽車に乗込んだ形跡までは辿ることができたのだ。磯づたひに柏崎まで彷徨《さまよ》ふていつたらしかつた。なんとなく落付のない一日が暮れて暗澹たる夜が落ちたが、当太郎の消息はさらになかつた。夜が落ちると、北風の悲鳴と海鳴りが、急にいちぢるしく唸りはじめてくるのだつた。
 当太郎の失踪が確定してしまふと、まさ子は却つて物憂いやうな落付をとりもどしてきた。時間の経過につれて悲観的な気分が部屋のどんな気配の中にも深まりはじめ、淵へ突落されてゆくやうな手触りのない不安がせまりはじめてくるうちに、夜がとつぷり落ちきつてしまふと、まさ子の物憂い落付は一層病
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