し倒して力を鍛えたり、木立を相手に立廻りの稽古に没頭したり、日が暮れるまで山で遊んでいる。先輩の坊主にこの乱行を見届けられて、
「キサマ、坊主の身でありながら、鳥獣を殺して食うとは何事だ」
「イエ、ありがたい経文を唱え、引導をわたして食べますから、成仏ができてありがたいと云って鳥獣がオナカの中で手をついて礼をのべております」
箱根の別当はこれをきいて、子供のころの暴れん坊は大人になると案外大物になるものだ。将来見どころがあるようだから、ナニ、子供のうちは仕放題にやらせておけ、と笑ってすましてくれた。そのおかげで、箱王は十一から十七の年まで箱根山中でたらふく肉を食い大いに鍛錬して育つことができた。ついに身長六尺、力の底が知れないという怪童ができあがった。谷底へ大石を突き落す、大木をひッこぬく、強弓の遠矢は目にもとまらず谷を渡るというグアイで、箱根の山は連日噴火か地震のよう。師の坊もたまりかね、
「お前も大人になる年頃だから京都へ行って得度して一人前の出家になりなさい。明日その垂れ髪を切り頭を丸めて、京都へ出発だ」
冗談にも程があると箱王は思った。毎日存分に肉をくい、仕放題ができるから
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