よ。今はテイサイなんぞ云ってられやしないよ。なんでもいいから、もうけることをやらなくちゃアいけない」
「先様で使ってくれるなら働かないものでもないよ。私だって貧乏はウンザリしてるよ」
「それでなくちゃアいけねえ。これを人生案内てえんだ。人生のこういう時にはこういうものだということを、天下にオレぐらい深く心得ている人物はめッたにいやしない。ずッとそれを研究してきたカイがあった。オレが人生案内してやるから親舟にのった気持でオレにまかしときゃアいいんだよ」
お竹は以前食堂に働いていた女である。支那ソバを売りこみに出入りしていた虎二郎に見染められて一しょになったが、当時は虎二郎の支那ソバも全盛時代で、お竹にしてもこの人ならと当時は思ったのである。お竹はちょッと渋皮のむけた女だ。虎二郎とは十も年がちがってまだ二十八。ちょッとつくれば相当見られる女であるから、当人の身にしても、この貧乏ぐらしでこのまま老いこむのは残念な気持はつよい。
料理店へ願いでてみると、三日間のお目見得ののち、上々の首尾でめでたく採用ということになった。
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料理屋へ通いは田舎ではグアイがわるかっ
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