ら、一応女を診察室へ呼び入れて様子を見ると、なるほど普通じゃない。人間どもがみんなバカに見えるらしいのである。
「何ですか。お前は偉そうな顔をして。私がジッと睨んでやると、お前なんか、ほら、たちまち掌の上の小人のように小ッちゃくなるんだから」
女は大巻先生を変に色ッぽく睨みつけて、カラカラと高笑いした。
「ここ、病院でしょう?」
「そう」
「フン。私がお前を見てあげるから、ピンセルチンを出しなさい」
「ピンセルチン?」
「お前の病院には、ないでしょう。じゃア、聴診器や体温計はいらないから、メスをだしなさい。お前の悪い血をとってあげる」
危険思想を蔵している様子であるから、大巻博士も面くらい、折よく診察を乞いにきた呉服屋の番頭の日野クンという如才のない人物に見張をたのんでレントゲン室へ遠ざけた。さて、安福軒をよんで、
「君もひどい人だね。私に以前イヤな思いをさせといて、オクメンもなく女をつれてくるなんて」
「イエ、それがね。アレが先生のお噂をするんですよ。先生にお会いしたいなんてね」
「ウソ仰有《おっしゃ》い。私の顔を覚えていない様子じゃないか」
「今はそうですけど、そこはキチガイの
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