ことですもの。それは、あなた、時によっては、先生のことをとても深刻に思いだすらしい様子ですよ」
たぶんチャランポランだと思うけれども、安福軒の口にかかると、なんとなく嬉しいような気持になるのがシャクである。しかし、いつも舐められていたくないから、タダ追い返すのは面白くない。今回は仕返しにイタズラしてやろうと大巻先生は思いついたのである。
「しかし、君の彼女はキチガイになって益々気品が高まったじゃないか。私を見下してカラカラと笑った様子なぞ、キチガイというよりも、神人《しんじん》的だね。私はゾッとしましたよ。何か威に打たれたような思いだったよ」
「そう云えば、気品と色気は益々横溢しているようですな」
「彼女を精神病院へ入れるなんてモッタイないね」
「なぜですか」
「君も目ハシの利く商人に似合わず迂遠な人だね。彼女に神人の性格を認めないかね」
「つまり教祖ですか」
「左様、左様。医者の使う道具や薬の中にピンセルチンなんてものは存在しないが、あれはたぶん作語症というのだろう。自分独特の言葉をもっているのだよ。これも神人の性格じゃないか。人間どもがみんなバカに見えて、睨みつけると、掌に乗ッか
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