ず書院で、管長に会う。リュウとしたギャバジンの洋服のオモカゲどこへやら。頭を青々とクリクリ坊主にまるめ、略式の法衣のような特別なものを着ている。むしろこの方がどれぐらい呉服屋の手代らしいか分らないほどだ。手代らしからぬのは、たぶん高価なものに相違ない香水の匂いが彼の身にたちこめていることであった。
「ずいぶんいい匂いですね。なんの匂いですか」
と川野がフシギそうに訊ねると、管長はいと気楽にニコニコと答えた。
「フランスのちょッとした香水です。この前、先生がいらした時、まだこれつけてませんでしたかしら」
「前にボクが来た時は酔ってたし、もう半年以上になりますね。この本部へ移ってからは来たことがありませんよ」
日野クンは青々と光りかがやく頭を二人に突きだしてみせて、
「とにかく、ボクも管長でしょう。教祖とちがってボクには身に具わる霊の力もないものですから、外形なぞで苦労するんです。この頭なぞも毎日バリカンを当てて、フケ一ツないようにゴシゴシこすって――ヌカブクロでやるんです。オカラを用いたこともありますし、信者が届けてくれたのでウグイスの糞を用いたこともありますが、主としてヌカブクロで
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