すよ。キュッ/\こすったあと牛乳で頭をひたしまして、耳の孔などもよく洗います。それで自然にツヤがでるのですね。油をぬって光らせているのだろうと仰有る方がありましたが、そういうことは致しません」
「フーム、よく、つとめている。さすがだ」
と川野が感嘆の声をもらした。それが嬉しかったのか、日野クンはポッと耳まであからんで、
「お目にかかるたび、励ましていただきまして、おかげさまでフツツカ者もちかごろでは人様にいくらかでも好もしい目で見ていただくことができるようになりました」
日野クンは元々如才のない人物だったが、大巻先生の患者のころはこんなに処女のような初々しさはなかったのである。生き神様はこうなるものかと大巻先生は童貞のダライラマを思いうかべたりしたほどだった。ちょッとチゴサン的でもあった。
大巻先生はあまりフンイキをたのしむことに興味がないから、単刀直入、
「あなたもエライ管長さんになって凡俗の近づきがたい存在になってしまったが、実はね、ボクもかねて現代医学というものにあきたりない気持があって、宗教の暗示力、霊力というようなものに心をひかれているのです。川野先生のお話を伺うに、先
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