があってシンから落着き払った様子であったが、神サマのお供にウキミをやつして悪事と縁が切れたせいか、むしろイライラと落着きがない。してみると、神サマにはよほどの威力があるもののように考えられた。
掌の放射熱
「君が安福軒のインバイ宿へ泊ったのが阿二羅教発祥の縁起だそうじゃないか。昭和宗教史に特筆すべき一大情事だね」
と川野水太郎はイヤなことを云って大巻先生をひやかした。そこで大巻先生はいささか気を悪くして、
「君は教祖を信心してるのかい。それとも軽蔑してるのかい」
「むろん信心してるのさ。あの夫人にはたしかに妙な霊力があるし、それに管長が弱年に似ず商売熱心なんだね。教祖が直々患者を診察するのは一度だけで、あとは管長その他が代診するらしいが、ボクの娘の場合で云うと、治るまで管長が毎日欠かさず水ゴリとりにきてくれたぜ。冬のさなかにハダカでバケツの水を何バイも何バイも浴びるのさ。そんなこと、安福軒にはできやしないよ。コイツ怠け者で女にインバイさせてケチな稼ぎをやらせることしか能がないから、女に逃げられて、カンジンな大モウケをフイにするのさ。近ごろ毎日メソメソ泣き言ばかり並べてや
前へ
次へ
全28ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング