である。
しかし、大巻先生のところへ問い合せてくる者の多くが、阿二羅教について悪い噂をもってくることが少い。先生が医者のせいがあるかも知れぬが、申し合せたように治病能力が特に絶大だということを云ってくる。それが先生の気がかりの第一であった。
大巻先生は開業医という商売柄、医者の流行の真因は何かということについては、ひそかに痛感することがあったのである。むろん医学上の手腕にもよるが、処世上の手腕がまた大切で、特に治病を促進するものは何よりも医者に具わる暗示力ではないかということをひそかに考えていたのである。
「阿二羅大夫人なる女性には生れつき具わる白痴的な気高さがあった。今にして考えると性慾を絶するような悲愴なところがあったなア。オレは今ごろ気がついたが、日野管長が一目でそれを見ぬいたとすると、これもアッパレな人物だ。あの変テコな気品で、自分でこしらえた勝手な新語を使いまくって、悩める者に解答を与えると、なるほど相当な治病能力があるかも知れぬ。なんしろ人間どもをバカときめてかかっている御仁には、とても人間どもはかなわない。大夫人の威力なるものを一ツ見学してみたいものだ」
大巻博士は
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