「それがよろしいですね」
 意外な結果になった。二人は何が嬉しいのか分らないが、申し合せたように浮き浮きした顔をしている。どちらも成行きに満足であり、また成算あるもののようであった。そして、もう大巻先生に用はなくなったらしく、
「では……」
 と両名目で合図、軽く先生に挨拶を残し、この診察室で誕生した神人をそれぞれの流儀によっていたわりながら退去したのである。

     神サマの客引き

 それからまた一年すぎた。ちょうど日曜と祭日がつづいたので、大巻先生はかねて志していた例の温泉へでかけた。
 その温泉では阿二羅《あにら》サマという新興宗教が発生して、大巻先生もその信者だということになっている。川野水太郎という文士が一肌ぬいでいるという噂もあるし、安福軒が家業の万国料理をホーテキして入れ揚げているという風聞も伝わっている。教祖を阿二羅大夫人と云い、管長は三十ぐらいの弁舌さわやかな人物だというから、みんなそれぞれ思い当るところがある。阿二羅教のことについて大巻先生に問い合せてくる者もある始末で、何か宣伝の材料に使われているという話であるから、折を見て偵察にでかけてみたいと考えていたの
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